1984年3月1日発行
A5判248頁
頒価1,200円
第1号の特集は「青少年問題」です。卒業生・在校生あわせて総勢20名が参加した座談会「少年非行の現状と背景」は、「社会学と現実社会とをつなぐ『交流の場』」(編集後記より)として創刊された『社会学雑誌』の主旨を反映したものです。まず、在校生の卒業論文に基づき、統計資料分析から量的増大・「低年齢化」・「遊び型」非行・「女子非行の増大」・非行の「一般化」の5点が少年非行の特徴として挙げられます。続いて、教育の現場に身を置く卒業生から、非行の現状や学校の階層化、登校拒否といった、日々身をもって感じている問題点が指摘されています。そうした教育現場からの声に対し、親となった卒業生からは親の役割、現代の家庭の状況、子供と接する上での母親の態度のありかた、といった話題が提出されます。そして再び学校教育における「受験体制」と「能力主義」をめぐる問題について意見が交わされたあと、最後に社会学的観点から、マスカルチャーの構造が青少年に与える影響への注目、および日本社会における新たな道徳的規範の構築の必要性が提唱されています。
そのほか、巻頭を飾る長谷川善計(神戸大学)の「家と屋敷地(上)」、第34回関西社会学会シンポジウム(「われわれは社会構造をどうみるか」)における報告をもとにした大野道邦(神戸大学)の「構造とシンボル」といった論文が掲載されています。また、社会の各分野で活躍する卒業生の声を届ける「ソシエテ」欄には10名の卒業生を迎え、熱気溢れるスタートを切っています。
〈研究室便り〉
1985年3月1日発行
A5判260頁
頒価1,200円
第2号の特集は「家族関係」です。はじめに「座談会」として当時の在学生と卒業生による議論が掲載されています。そこではまず、中高年離婚や妻からの離婚調停申し立てを背景とする「離婚の増大」、昭和40年代以降急速に増加してきた「家庭内暴力」、学歴社会を背景として「子供を追いつめる親」について統計・事例などをもとに論議がかわされます。そして、「経済・文化四類型仮説」や「サブ・カルチャアとしての夫婦関係」「家父長制と親子関係」など、社会学の視角による問題の分析が行われた後で、長谷川善計(神戸大学)は「愛情」とか「愛」とかいう言葉が本来の日本にはない言葉であることを指摘されます。そして「結婚」「家族」といういわゆる「普遍的」な人間のテーマについて討議が進んだ後、結論と次の3つが示されます。つまり。「個の確立から家族の再構成」とされるが、そのさいの「個」については西洋的な自我ではなく「日本的自我の確立の必要」であり、その上で、「近代的自我と有機的連帯」の問題が考察されるべきであるとしています。
その他には日本の「末子相続」に関する内藤莞爾(九州大学名誉教授)の研究、タイ家族に関する竹内隆夫(金城学院大学)の研究や、配偶関係死亡率についての西川美紀(福井医科大学)の研究が掲載されています。この研究では、「男性の死亡率は女性より高い」「離婚による自殺は男性の方が多い」、という結果が出ています。数年前にアメリカの人類学者が書いた『愛は4年で終わる』という本が話題になりましたが、この西川の研究結果と、長谷川の「惚れたはれたなんていうのは、若いときは1年か2年続くわけでありますけれど、もう3年もすると、惚れたはれたもあらへんようになってあとなんにものこらないんですね」という「座談会」での言葉をいったい、肝に銘じるべきか……。
〈研究室便り〉
1986年3月1日
A5判283頁
頒価1,200円
第3号は杉之原壽一教授の退官記念号です。杉之原先生は大正12年1月15日に生まれ、昭和22年京都帝国大学文学部を卒業、京都大学人文科学研究所助手を経て、昭和26年神戸大学文学部講師に赴任されました。そして、それから35年の間、神戸大学の社会学研究室の発展に尽力されました。この間、杉之原先生は研究、教育、大学の管理運営、そして教職員組合運動や部落解放運動など精力的に多方面に渡って活動されました。
杉之原先生は、テンニエスの『ゲマインシャフトとゲゼルシャフト』(岩波文庫)の名訳で有名ですが、実は学生時代に訳されたものだそうです。著作22冊、翻訳5冊、論文は実に100本を数え、各方面に研究業績をあげられました。研究内容は、京都大学人文科学研究所時代は、フランス百科全集派やルソーの研究と、但馬における親方・子方関係の研究があり、神戸大学に来られてからは昭和45年までは労働者意識論が中心になっています。その間、ポリネシヤ、フィージ-、ニュージーランドなど未開社会の実態調査にも従事されています。しかし、昭和45年以降は部落問題の研究に専念され、その成果は『杉之原壽一部落問題著作集』(全8巻)に結実されています。そして、昭和59年には『現代部落の研究』において野呂栄太郎賞を受賞されております。なお、平成9年現在、『著作集』は全20巻に及ぼうとしております。
その他第3号には、諸論文の他に「今日の教育問題を考える」と題して、当時の在学生と卒業生による座談会が掲載されています。「援助交際」「不登校」「ベルトモ」現象など(それを扇動するマスコミも含めて)混迷を極める現代の学校教育のあり方について、バブル前期に行われたこの座談会は「いじめ」「管理教育」「家庭と地域の教育力」など現代を考えるための基本的な視座を与えてくれます。
〈研究室便り〉
1987年3月30日
A5判228頁
頒価1,200円
巻頭には「日本の家と同族」というシンポジウムでの報告論文2本とその報告を土台にして行われた討論会が収録されています。シンポジウムの記録の冒頭には、このテーマに長年取り組んできた長谷川善計(神戸大学)による「日本の家と同族団」という論文が掲載されています。この論文は、同氏がその時点までに発表してきた「家」と「同族」に関する論点をコンパクトにまとめたものとなっており、その後の日本の家研究に大きな影響を及ぼした長谷川「家」理論の入門書的な役割も果たしうるものです。また、藤井勝(神戸大学)の「『家』と家父長制」は、家父長制というキータームによってこれまでの家研究の議論を再考しようとしたものです。
これらの報告を受けた討論会では、日本法制史、社会学、日本経済史、日本近世史の各分野の研究者総勢8名による日本の家と同族に関する活発な議論が行われています。議論は多岐にわたり、近世初期からの社会変動をふまえた議論を展開する長谷川報告、藤井報告に対する、近世史などを主要な研究テーマとしてきた各討論者の質問やコメント、さらにそれへの応答は、「家」「同族」研究における近世社会構造の重要性を示すと同時に、「専門」という殻に閉じこもり、他分野との共同を行うことが少ない社会科学の現状において、専門学会という枠に縛られないシンポジウム形式による学際研究の大きな可能性を示しています。
また、「海外の社会学」として、中国人研究者による中国社会学の現状についての論文と、ユーゴスラビア人研究者によるユーゴスラビアにおける新住宅地開発に関する論文の邦訳が収められており、従来あまり知られていなかった両国の社会学研究の一端を窺い知ることができます。その他、合田濤教授(神戸大学)による「チベット族の家族と婚姻」、油井清光(神戸大学)による「G・H・ミードにおける自我形成論」、居安正(神戸大学)の翻訳によるG・ジンメル「感覚の社会学」などの論考もあります。
<研究室便り>
1988年3月30日
A5判228頁
頒価1,200円
5号では、円高や貿易摩擦のなかで、世界のなかの日本について考えさせられることの多い近年、日本社会は一つの転機を迎えているという認識に立ち、特集として「日本人と日本文化」をくんで、日本の文化、精神構造、意識などについて様々の視点から考察しています。
掲載論文について簡単に解説しておくと、まず大野道邦(神戸大学)「『型』としての日本文化」では、日本の伝統文化を「型」の文化としてとらえ、その解明の手がかりとして歌舞伎に着目し、歌舞伎に見られる型と、伝統文化ひいては日本文化総体との関わりについて指摘しています。
岩崎信彦(神戸大学)「日本的『拝金主義』の構造」では、戦後日本の経済成長に伴い「エコノミック・アニマル」と呼ばれる日本人の社会的性格を「拝金主義」としてとらえ、その内的構造を解明しています。最後に今日的な消費の世界の背景にあるフェティシズムについても触れています。
奥村義雄(富山大学)「神通川地域住民の生活と意識」は、イタイイタイ病と、神通川流域に住みそこで生活する地域住民についての実証的分析と問題提起を行っています。
芦田徹郎(熊本大学)「祭りと社会変動」では、今日、日本各地で祭りが盛んになってきたのは何故かという問題意識から、熊本市の「ボシタ祭り」の事例をとりあげ、戦前・戦後の社会変動と連動させて祭りの変容を分析しています。
宮崎和夫(神戸市立楠高等学校教諭)「現代日本青年の文化意識」では、現代日本の若者を代表する高校生の意識調査を行い、生活感や人生観についての分析を行っています。そこから新人類的な特徴を抽出し、あわせてそのような若者を取り囲む現代社会について考察しています。
また「日本人・日本文化・そして新人類」と題された座談会では、留学生も交えて日本人や日本文化について活発な議論が展開されています。
〈研究室便り〉
1989年3月30日
A5判252頁
頒価1,200円
本号では「NICSと第三世界の発展」と題し、アジアNICS現象の、第三世界の発展に占める特殊性と普遍性、光と陰について、この領域における社会学、政治経済学の権威によって、多面的な議論が展開されています。
三本の収録論文のうち、山口博一(アジア経済研究所)による「NICS的発展の意義と展望」においては、アジアNICSが他の途上国に対してその将来の姿を示すものとなるのかどうかという問題にたいし、アジアNICSの従来の発展の評価を行い、そのような発展がさらに水平的に普及するかどうかを検討することを通じて、この問題を考えるために不可欠のポイントが提示されています。
滝沢秀樹(甲南大学)の「”韓国資本主義論争”と民族経済論」においては、80年代の韓国で活発な展開をみせている”韓国資本主義論争”を、その前提としての70年代の「歴史=構造論者」の議論(これを”民族経済論”として把握)の継続線上に位置づけることにより、”論争”における主要な論点の正確な理解が目指されています。
北原淳(神戸大学)の「東南アジアとNICS的発展の可能性」においては、NICSとASEANの国際的・国内的諸条件を比較検討することを通じて、NICSが東南アジアに波及するとすれば、従来のNICS的発展とどう異なってくるかが考察されています。
〈研究室便り〉
1990年3月30日
A5判259頁
頒価1,200円
7号の特集は「神戸の華僑」です。
まず陳徳仁(神戸華僑歴史博物館館長、孫中山記念館副館長)「神戸華僑を語る」では、「華僑」の定義、明治期の神戸華僑、その当時の代表的な実業家である呉錦堂、孫文と神戸とのかかわり、さらには現在の神戸華僑民衆の職業や生活、信仰などが述べられています。
王柏林(神戸中華同文学校副理事長)「金門島山後郷王家三代記」は、氏の曾祖父・王明玉から祖父・王敬祥を経て、父・王重山に至る三代のライフ・ヒストリーを綴ったものです。王敬祥は、革命運動の最も困難な時期に、「中華革命党」の神戸大阪支部長を勤めるなどして孫文に助力した人です。本稿には、彼らの間に交わされた密書の写真資料等も掲載されています。
陳正雄「統計から見た在日中国人」では、中日国交回復をはさんでの在日中国人の来住時期、年齢別構成、出身省別構成の変化と、中日間の政治・経済的関係の変化との関連が考察されています。
安井三吉(神戸大学)「近代日中関係と兵庫県在留中国人」は、神戸華僑史研究の一環として、日中関係と兵庫県在留中国人との相関関係を、数的変動を手掛かりに検討を加え、その特徴を明らかにしています。
許淑真(摂南大学)「労働移民禁止法の施行をめぐって」では、中国人の日本入国に対する取締りが強化された大正13年の事例を中心に、法の実施の具体策、流入労働者側の対応、取締りに対する世論及び法令改正への試みなどが明らかにされています。
その他、日本人と「国際結婚」して帰化し、「華僑から中国系日本人」となった女性(38才)や、戦時下の日本で苦境を生きてきたCさん(89才)へのインタビューなどを収録した「神戸華僑にきく」、さらに「神戸華僑研究会」(事務局:神戸大学文学部社会調査室)の研究例会・記念講演の報告などがあります。
1991年3月30日発行
A5判261頁
頒価1,200円
8号は、学問の国際交流を中心テーマに構成されています。特集第12回世界社会学会は、報告者として参加された油井清光(神戸大学)が、講演内容や開催地マドリッドでの若手研究者の交流の様子などをレポートしています。
また、座談会「留学生と神戸」では、国際都市として名高い神戸に多数滞在している留学生の生活について議論されました。アンケートによる統計結果の報告とともに、神戸大学在学中の留学生の方々から、住居の確保や生活費、日本語教育の問題など、実体験に基づくお話や意見がのせられています。
研究論文も海外の諸地域の研究を多く収録しており、タイ、ユーゴスラビア、中国、メラネシアなどの世界の様々な地域社会に密着した、興味深い諸論文が掲載されています。
<研究室便り>
<短信二題>
1992年3月31日発行
A5判243頁
頒価1,200円
近年、日本国内の米不足により、外国産の米が緊急輸入されたところ、様々な社会的混乱が生じ、内外で物議を醸したことは、まだ記憶に新しいところです。農産物の輸入自由化がもはや不可避と考えられるつつある中で、日本の農業の実状を踏まえての食料生産のあり方は、まさに緊急を要する検討課題といえます。
本号に掲載されているシンポジウム世界のコメと日本の農業は、このアクチュアルなテーマを先取りする形で行われた、各分野の専門家による討論会を収録したものです。まず、北原淳(神戸大学)、加古敏之(神戸大学)、保田茂(神戸大学)により世界の米市場の動向や日本の農業の現状についての基調報告が行われました。そして討論会では、今井俊作(兵庫県農協中央会)が農協の立場から、松尾正巳(加古郡稲美町職員)、渡辺省吾(兵庫県有機農業研究会)が農家の立場から発言され、現場の声を交えた興味深い議論が展開されています。
<研究室便り>
<短信二題>
1993年3月31日発行
A5版293頁
頒価1,200円
本号はふたつの特集から構成されています。まず「デュルケーム」特集は、デユルケームの現代的かつ社会学的意義を問うという視点から企画され、以下の諸論文が収録されています。大野道邦(神戸大学)「集合的沸騰とシンボリズム」では、デュルケームの「独自の実在としての社会」を、シンボリズムによる沸騰の構造化という視点から、意味システムとして考察されます。中島道男(奈良女子大学)「デュルケムと<制度>理論」は、デュルケムが<制度化する制度>をその射程に入れていることをふまえて、彼の社会学が動態的な<制度>理論であることが示されます。山下雅之(近畿大学)「動物社会から有機的社会へ」は、コントの死からデュルケムまでのフランス社会学史の「空白」をエスピナスで埋め、理想的価値として論じられた社会レベルの「連帯」概念の理解に迫っています。文献紹介:「デュルケームの知的発展[問題]再考」(J・C・アレグザンダー、呉賢淑・油井清光訳)では、デュルケムの展開が、秩序問題への「イデオロギー的接近」とそれの「理論的表現」との矛盾をはらんだ往復運動として捉えられる、というアレグザンダーの説が紹介されていま す。
特集「世界の酒」は、文化と酒の密接な関係を「比較社会学的」な視点から見る、というコンセプトで組まれています。眞方忠道(神戸大学)「ギリシアに於ける酒と文化」では、古代ギリシャに見られる酒と文化の関係の源流へとさかのぼって、このテーマが論じられます。「座談会 世界の酒」では、諸外国からの留学生のお話から、世界の諸地域において、それぞれ独特の「酒」文化が形成されていることが明らかとなります。
また、神戸大学の地元である関西地方は古くから酒造業が盛んで、「酒」が文化として根付いている地域といえます。長谷川善計(神戸大学)「近世灘酒造業の台頭と発展」、矢倉和紀(神戸大学)「近現代の灘酒造業の発展」では、伝統的な地場産業としての灘の酒造りの歴史的な経緯が論じられます。稲見宗孝(サントリー株式会社)「酒と、広告と、文化と」では、サントリーの企業活動に携わってきた論者の体験に基づき、現代社会における「酒」文化のありようが述べられています。
世界の酒(各国からの留学生・神戸大学文学部教官)
<研究室便り>
<編集後記>
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